密度の高い文章が退屈になるのは情報が多いからではなく、全文が同じ認知モードで書かれているからだ。k16shikano氏がGitHub Gistに公開した「認知リズムを生むための日本語ライティング規範」は、その問題を解くために設計されたSKILL.mdである。

840スターを超えるこの規範は、説明的な文章に「緩急」を設計するための道具だ。緩急を装飾として扱うのではなく、読者の認知モードの切替(観察→逡巡→断定→再観察)と未回収の緊張の管理として定義している点が面白い。

文章の拍と密度波形

規範が目指すのは「立てる→流す→止める」の文の拍である。短文で足場を打ち、長めの文で流し、短文で止める。これを段落の基本リズムにする。

もっと重要なのは段落の密度波形だ。密な段落が2〜3個続いたら疎の段落を1つ置く。視点を具体(記録、数値、コード)に寄せる段落と意味づけで一段引く段落を交互に配置する。箇条書きは情報の圧縮だけでなく、本文の呼吸を止める「間」としても使う。

未回収の緊張

完成した結論を解説する声ではなく、考えながら進む当事者の声で書く。そのために規範が要求するのは「少なくとも一つの未回収の緊張」である。答えの出ていない問い、裏の取れていない確信、あとで返すと約束した答え——どれか一つでも開いておかないと、読者は読むのをやめる。

逡巡を「弱さ」として扱わないのもポイントだ。「〜に違いない」(あとで裏切られる思い込み)、「〜とは思う。ただ…」という形で、読者の予測を誘導してから崩す布石にする。

駄文の判定基準

執筆後の点検手順で特に興味深いのが「話題テスト」だ。判定の軸は一つだけ。「その文が更新するのは状況か、文書か」。

  • 状況(対象世界の出来事・データ・語り手の判断状態)を更新する → 残してよい
  • 文書(この章がどう見えるか・次に何を書くか)を更新する → 原則削除

「要するに、この章の主題は〜ではなく〜である」というのは駄文の典型だ。話題が本文自身で、対象の新情報がないからである。

一方で、「うまくいっているに違いない」(思い込み。あとで崩される布石)や「そうしたかった、とは思う」(反問への譲歩)は良い緩みとして残せる。どちらも語り手の判断状態を更新しているからである。

なぜGPT系に効くのか

GPT系の文章が平坦になりやすいのは、出力の確率が均質で、文脈内の「密度の変化」を自発的に作りづらいためだ。この規範は機械的な指示ではなく認知モードの切替を要求するため、GPTが生まれやすい均質な語調を破る装置として機能する可能性がある。

併用する規範としてjapanese-tech-writing/SKILL.mdも公開されている。こちらは日本語の技術文書・書籍原稿向けの文章規範で、両方を組み合わせるとより深いコントロールが効く。

参考