公開スライド「AI臭い文章とは何なのか」は、生成AIの文章に感じる違和感を、具体的な修正例で説明した資料です。不要な対比から本題に入る書き方、何をするのか分からない比喩、短文を並べて印象を強める表現などを取り上げています。
文章を見直すときに役立つのは、言葉の好みを争う前に、読み手が何を補わなければならないかを確かめる、という観点です。資料の終盤では、「AI臭い」という指摘自体も抽象的だと問い返しています。
動詞を直すには、対象と条件が要る
スライド7の修正前の例は、次の一文です。
片方だけを見て基準を作ると、もう片方が壊れます。
資料では、これを開発速度と保守性のトレードオフを述べる例として扱い、次のように直しています。
開発速度だけを基準にすると、保守性の要件を満たせなくなるおそれがあります。
修正後は、何を基準にし、どの要件が満たせなくなるのかを追えます。「壊れる」を別の動詞に置き換えるだけでは、ここまでは伝わりません。対象を示したうえで、起こりうる問題を書く必要があります。
短さについても同じです。スライド9は、稼働中のシステムを変更する話で、動かす対象、引き返す条件、戻す状態が省略された文を取り上げています。文を短くしても、その分だけ読者が推測するなら、説明としては不親切です。手順を説明する文章では、長さより先に、操作と条件が抜けていないかを見たいところです。
発表を聞いていない人にも伝わるか
資料はスライドの見直しにも話を広げています。口頭の補足があれば分かっても、後から資料だけを読んだときに「誰が・何を・どうした」が分からなければ、再配布しにくいという指摘です。
技術記事にも、この確認方法を使えそうです。書き手が知っている前提をいったん脇に置き、指示語の参照先や処理の主体を本文から特定できるかを読み直す。特定できない箇所があれば、元の仕様や記録を確認して補います。自然な文章に整えるためであっても、分からない条件を推測で足してはいけません。
関連する公開プロジェクトのyomiyasuも、READMEで単語の禁止だけでは文構造の不自然さを解消できないと説明しています。動作主や対象を明確にする原則と、原文にない主体や仕様を追加しない原則を並べている点は、推敲をAIに任せる際にも参考になります。ただし、ここで紹介しているのは設計方針であり、実行して効果を検証した結果ではありません。
レビューコメントも具体的にする
資料の最後にあるのは、意味を尋ね、説明してもらい、その内容を文章に書くよう促すやり取りです。「AIっぽいから直して」より、書き手が修正箇所を判断しやすくなります。
この考え方を記事レビューに使うなら、「この動詞はどの操作を指すか」「問題が起きたとき、何をどの状態に戻すか」と尋ねるのがよさそうです。比喩や短文を一律に排除する必要はありません。読者が本文だけで意味を理解できるなら、残せる表現もあるはずです。
次に文章を直すときは、気になる語をまとめて消す前に、意味を説明できない一文を選ぶ。その説明を本文に書き足し、元の事実や条件を変えていないか照合するところから始めたいと思います。